コラム欄login 希望の効能 患者さんの中には、自らの長引く精神の変調との悪戦苦闘に疲れ果て、絶望感に苛まれる人たちがいます。絶望感は、「精神の死」を招来します。精神の死は、身体の死である病死や自殺を招くことも少なくありません。絶望感を強く持つ人の場合、精神医療に対して治療抵抗性で難治であることが特徴的です。絶望に対抗し得るのは希望の力のみと信じ続けることが肝要です。希望を手に入れるいくつかの方法の一つとして、私は特に良書を読むことをお勧めします。私は、若いころからかなりの量の良書を読んでいます。 希望の持つ威力について記された本のうち、以下の二冊を挙げたいと思います。読書嫌いと言わずに、是非読んでみてください。感想や希望に関した自己の体験などを投稿いただければ、コラム欄に記載したいものです。 一冊目は米国の作家オー・ヘンリーの短編小説、「最後の一葉」です。既に読まれた方も多いかもしれません。医師は生きる気力を失った若き女性ジョンシーに死の宣告をします。絶望感の中で彼女は、窓から見える木の葉に自分の運命を託すことになります。木の葉は時とともに、段々と数が減り、ついには、最後の一葉を残すのみとなりました。事情を知った隣家の落ちぶれたアルコールびたりの老画家のスーは、ある決意をします。ある日の夜の嵐が過ぎた翌朝、明るい日差しの中で残った一葉を眺め、彼女は生きる力を取り戻し、死の 運命から逃れることができました。この老画家は、真夜中の嵐の間中、すでに散り 落ちた一枚の木の葉の代わりに、窓に別の一枚の生き生きとした木の葉を画き残して、全精力を使い果て、孤独な中で肺炎で亡くなります。彼の友人は、この絵がこの名もない老画家の残した、報われない生涯の中での最高傑作と、評したそうです。 以上、長いあらすじを記しましたが、皆さんはどのような感想を持ったでしょうか?生死を賭した無償の愛情の力と、希望の力の偉大さを感じさせる物語ですが、誰かの犠牲なくしては、成り立たぬ人間存在の素晴らしさと儚さと悲しさをも表現した巨匠のさすがの作品と、私は感じました。 次回は、二冊目の作品、オーストリアの精神科医の、原題 ・・・trotzdem Jazum Leben sagen (私訳:それでも私は人生を肯定する)日本語訳 「夜と霧」について、解説したいと思います。