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初心忘るべからず
 仕事に興味関心を失い、そして職場の人間関係で疲弊し、終には「うつ」と「不安」
の状態に陥り、外来を受診する人たちが実に多い。気の毒だと同情するだけでは、問題は
解決しない。若い年代の患者さんが多いことは、特筆すべき現象と言えると思われます。
私の若いころと時代が大きく変わったことは、間違いない事実ですが、それにしても、
以前はうつ病やうつ状態そして不安状態で外来を受診する患者さんは、現在よりも
遥かに少なかった。若いころの私にとり、うつ病の類は、非常に珍しくて、診療場面で
異常に緊張した記憶があります。
 何故このようなことが起こるのか、考えてみると不思議な気がします。時代や生活環境
の急激な変化、価値観の多様化、教育の抱える問題、核家族化、家庭内の養育や躾の変化、
女性の社会進出、貧困化現象の悪化、情報化時代など、様々な要因が指摘されています。
 しかし、以前も中味は違えど、様々なうつ病親和性の生活環境や社会環境は存在して
いたはずであり、そもそも人間存在の本質は、さほど大きく変わるとは思えません。
私の妄想的な考えでは、前代未聞な速度での進化論的な変化が関与しているという気がし
ています。しかし、うつ病という現象が生存にとり有利かどうかという点で、うつ病者の
ように思考停止となってしまいます。しかし、うつ病者が人口の大多数を占めるような世界
が到来可能かどうか大いに興味があります。
 さて、つまらない話はこの辺でやめて、本題に入りたいと思います。仕事にまつわる問題
の解決にはなにが必要か考えてみましょう。初めて仕事を始めた時には、何らかの目的達成
の気概を持って取り組んだはずです。しかし、それが仕事が多忙だとか、人間関係が煩わし
い、収入が少ない、別の仕事の方が自分に適しているように感ずる、会社の方針に不信感を
抱き始めた等々の一見すると、もっともらしい理由でいつの間にか仕事遂行の本来の想い
(初心)を忘れることになってしまいます。目的達成のための努力と辛抱の必要性を放棄
してしまいます。後に残るのは、自信欠如と、後悔と人間不信、意欲低下などとなりがちで
す。初心を忘れては、大事の達成はまず不可能と肝に銘ずべきです。
 もちろん、仕事がすべてと私は思いません。しかし、内容はともあれ、仕事なしでは、
人間の成長が達成困難なことは、古今の厳粛な事実です。私のお勧めは、至極簡単です。仕事
を楽しめばよいのです。どうやって?ごく簡単な心理学的、人類学的事実に気付くだけです。
人は、他者の幸福に喜びを感じる本能的習性を、長い悪戦苦闘の歴史の中で、奇跡的に獲得し
ました。自分の仕事のすべてが、人のために役立っていると自覚する必要があります。そうす
れば、おのずと仕事が楽しいものに変わります。小さな人間関係の些細なトラブルもどうでも
よいと感ずるようになるはずです。

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