コラム欄login 妥協の勧め 私自身も、多くの人たちと同様に、妥協は損をすること、妥協は自らの体面や信念を損なうこと、自らの人格を否定する相手の言動への屈服と屈辱感を招く、相手に対する優越感を放棄する不快感を招く、相手から不当な劣等感を与えられる云々等の、様々な悪影響の原因となると思いがちでした。 果たしてそうでしょうか?そもそも、私たちには、上手な妥協の経験が少なすぎることを反省すべきと、思いますがどうでしょうか?上手な妥協とは、勝ち負けと賞罰のない五分五分の分かれと言えるでしょう。相手も自分も満足できる結果であり、爽快感さえ得られるものです。不信感はありません。相手に対する尊敬の念と自尊心の満足が得られます。私たちは、議論は上手な妥協に至るためのものと意識すべきです。 上下関係を目指す決着は、上手な妥協の精神に反する行為です。相手の非を責め、自分を正当化するような、夫婦間や友人間や職場での上司部下間のやりとりやいさかいは、簡単に人間関係の破綻に繋がります。別居、離婚、離別、退職等が当然の結果となります。双方が満足する妥協の道を選択しなかったからです。 妥協に関連する、人間関係の潤滑油とでも称すべきものに、約束の遵守が挙げられます。平和的な人間関係を維持するための要点として、約束は死守すること、約束を守る態度を堅持することが大切です。できない事を約束するルール違反は許されぬことと肝に銘じておくべきです。約束事を守れぬ相手を信用するようなおおらかな精神の持ち主は、まれと心得るべきです。 もうひとつ最重要と思われるものとして、相手に対する「尊敬」と「いたわりの気持ち」が挙げられます。いたわりの気持ちを持つ相手に対して、無関心や怒りを表すような冷酷非情の人間は稀です。「以心伝心」という言葉がありますが、「いたわりの気持ち」に対しては、「いたわりの気持ち」で応える場合がふつうです。 日常診療の場面でも同様です。医師の立場と患者の立場は違って当然です。うまくお互いの妥協点を探らないと、治療中断となりかねません。人間関係において、どうしても相手を許せないという、生理的嫌悪感とでもいうべき感情を処理できずに、うつ状態や不安状態をきたす方たちを、日常診療でよく見かけますが、もう少し妥協の道を探れないかと思います。しかし、「言うは易く行うは難し」の場合の多いのが、現実でもあります。